◆ 今 月 の 一 句 ◆ 2004.3月
大 井 恒 行
ひ か り 野 へ 君 な ら 蝶 に 乗 れ る だ ろ う
折 笠 美 秋
折笠美秋(びしゅう)は筋萎縮性側索硬化症(ALS)という難病に罹り、その病魔と闘いながら、わずかに動かせる目と、唇の動きを智津子夫人に読み取ってもらいながら、俳句を詠み続けた。新聞記者であった彼は、罹病した直後は「片腕だけでも、物を書く筋肉がほしい」と言っては、夫人を泣かせたという。
元気だった頃の彼は、俳句の言葉は何かの用のために奉仕するものではなく、言葉自身のためにのみあると、鋭利な批評家だった。記者としては、田中角栄を退陣に追い込んだスクープを連発して、新聞協会の賞まで取った。しかし、病に倒れて後は、「俳句思う以外は死者か われすでに」と詠む無念さを露にした。若き日、現代俳句協会賞を、いまだもらうにあたわず、と受賞を拒否。闘病時代、再びの候補になったときは、献
身的な妻への感謝を、これぐらいしかできないと賞を受けた。僕が、彼に会ったのは、僕が22歳の頃、白皙の美男子だった。告別の日は、3月も半ば過ぎだというのに寒く、雪が舞っていたのを覚えている。「微笑が妻の慟哭 雪しんしん」「春暁や足で涙のぬぐえざる」。
1934〜90年。横須賀市生まれ。本名(美昭)。『君なら蝶に』1986年所収