◆ 今 月 の 一 句 ◆ 

                                                          大 井 恒 行 
◆4月分

花 の 悲 歌 つ ひ に 国 歌 を 奏 で を り    高 屋 窓 秋 



 「花」と言えば、俳句では桜のことである。日本人はいつの頃からか、桜の花にある
種の心情を託して来た。窓秋は、昭和6年「馬酔木12月号」に、新興俳句の嚆矢とな
った「頭の中で白い夏野となつてゐる」の句を発表。その後、「ちるさくら海あをけれ
ば海へちる」「いま人が死にゆくいへも花のかげ」「山鳩よみればまはりに雪がふる」
などの人口に膾炙した名句を生んだ。その新興俳句運動も昭和15年「京大俳句」弾圧
事件をかわきりに権力によって壊滅。
 以後、窓秋は俳人としてはめずらしく長い沈黙の中断期間を経てはその都度、時の熱
心な編集者の求めをきっかけにして連作の作品を書き下ろして来た。現在のイラク戦争
を予知するような「砲弾に罪なき十万億土かな」「核の冬思想とともに神凍る」「きり
ぎりすきのふのそらのきのこ雲」「緑星喜劇悲劇と炎え始む」などの句もある。
 ミスター新興俳句・窓秋の最後の書き下ろし句集『花の悲歌』を、故三橋敏雄の勧め
で出版させてもらい、その打ち合わせで、国立「ロージナ茶房」でしばしばお会いでき
た幸運は忘れがたい。しかも『歳華悠々』(「東京四季出版」1996年刊、明治生ま
れの俳人のアンソロジー)の折りは骨折された後で自選をされず、お会いすることもな
く電話の依頼ではあったが、光栄にも窓秋代表350句の選者に指名していただいた。

 そして、いかにもふさわしいと思われる1月1日(1999年)に逝去、享年88。
告別の日は、かすかな雪が花のように舞っていた。「雪月花美神の罪は深かりき」。 

 1910(明治43)年〜99(平成8)年。『花の悲歌』所収。
 
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