◆ 今 月 の 一 句 ◆ 2003.6月
大 井 恒 行
帝 国 の 梯 子 し ず か に 朽 ち ゆ け り 久 保 純 夫
この作者には10代の末、「木蓮よ『その白い魔女を風葬に』」というロマンチシズ
ムあふれる青春の句がある。京都にいた頃、それも祇園の、公私ともに世話になった先
輩俳人の奥さんに会いたくて通った記憶は彼と僕の共通のものだったらしい。その後彼
は、僕の編集していた総合誌「俳句空間」を助けるつもりで弘栄堂書店から「水甕の水
の深さの国家かな」「水際に兵器性器の夥し」の句を収めた『熊野集』を出版し、現代
俳句協会賞を受賞した。
掲出の句の「帝国」は戦前の大日本帝国。もちろん、ただ「帝国」としか書かれてい
ないので、さまざまな「帝国」を思い浮かべても差し支えはない。「梯子」、いまでは
木製のものがなく、ほとんどが金属製になってしまった。僕がまだ小さい頃、つまり昭
和3〜40年ころまでは、たいていの家に木製の梯子があったものだ。この梯子を使っ
て、屋根に上り雨漏りの修繕をしたり、木に架けて剪定をしたり、なかには古くなって
足元が不安なものもあった。木製だから当然のように腐ったり、朽ちたりする。それを
あたかも国家もまた朽ちてゆくというふうにアナロジーしてみせたのだ。「すめらぎの
くらきところに曼珠沙華」。
1949年大阪府生まれ。『現代俳句100人20句』(2001年刊)所載。