◆ 今 月 の 一 句 ◆    2005.11月

                                                          大 井 恒 行 


秋 燈 や リ ス ト ラ ク チ ュ ァ リ ン グ 妻 に 説 く 

                                                            鈴 木 純 一 

 世にいうリスリラである。本来的な意味での再構築ではない。たぶん会社を心ならずも辞めることになったのであろう。妻に説明しても分かってもらえるかどうか分からない。ただ、たしかな事は来月から給料はないよ、ということだ。妻は、なぁに大丈夫よ、私も働くわ、と言ったかどうか。下五、「妻に説く」の措辞は、どうやらうまく理解してもらえない様子が伺える。「秋燈や」の上五はその淋しさの表徴だろう。それでなくとも秋の夜の灯火は淋しさをつのらせる。団塊世代はリストラ対象世代でもある。 

 その他にも「減俸や妻干す布団かけて寝る」「妻さきにねてる春燈の紐がたれ」「月食や給料明細ほそながく」などの句に表現されるような、労働者庶民の哀歓に特色を見いだすことが出来るが、むしろ彼の真骨頂は、それを基盤にした批評性のある句ではなかろうか。例えば、「うつばりのにっぽんちゃちゃちゃ隻手うつ」の「うつばり」は柱の上で小屋組を助ける横木のこと、「にっぽんちゃちゃちゃ」は、サッカーのサポーターの応援の様子であろう。にもかかわらず「隻手」は片手ですから音のない拍手をしていることに。あるいは「隻手うつ」は仏教僧の悟りのための行為の一つなのかも知れない。
 ともあれ、日本の現在の状況の比喩としても読めないことはない。「降る雪や軍旗と地雷はうごけません」「ばくだんがおでんであれば突きたまえ」の句にも同様の表情を感じるとることができる。
 また彼は、ときに人名を詠み込む遊びもできるようだ。「ちょろぎかな大井恒行てれ笑い」「蓬莱や筑紫磐井にがわらひ」。
       1947年京都府生まれ。『平成物語オノゴロ』(2005年8月刊)所収。


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