◆ 今 月 の 一 句 ◆    2004.7月

                                                          大 井 恒 行 


み し み し と み し み し と 夜 の 万 緑 
                            
                                                        高 野 ム ツ オ 



「万緑」(ばんりょく)という夏の季語は意外と新しい。昭和14年、中村草田男が「

万緑の中や吾子の歯生え初むる」の句に造語して使用したのが最初である。以来、この

季語は生命感あふれる緑の深さに感銘した俳人たちの間で、あっと言う間に広まってし

まった。これほど見事に新しく誕生し、広まった季語も珍しい。
 草田男の句が、わが子の成長を讃えるように、その生命力の象徴として「万緑」を置い

たのに対し、後に多くの「万緑」の句が作られてきたが、いずれも草田男の一句におよ

ばなかったのは、後の作者が、この句にまつわる力強い感じをなぞるだけで、その磁場

を脱却出来なかったためであろう。
 高野ムツオはそれらを承知で、同じ「万緑」でありながら、草田男とはまったく違っ

た情趣を開いて見せたと言っていい。上五・中七の「みしみしと」の繰り返しによって

、「万緑」そのもへ収斂させる方法で。しかも、「夜の万緑」。木の匂いも満ちていよ

う。絶望が、希望と裏腹のものであるような青年期の苦悩、ここでは積極的な力を感じ

させる一句になっている。力の詰まった「夜の万緑」、「みしみしとみしみしと」がそ

れを増幅させる。
 その他、彼には団塊世代を象徴するような「われは粗製濫造世代冬ひばり」の句もあ

る。東北・多賀城に腰を据えて「人間の原初的感覚を表現」することをねらっている。


 1947年宮城県生まれ。『雲雀の血』(1996年)所収。

 
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