◆ 今 月 の 一 句 ◆ 2004.8月
大 井 恒 行
な に も か も な く し た 手 に 四 ま い の 爆 死 証 明
松 尾 あ つ ゆ き
8月6日は広島に原爆が落とされた日、いわゆる原爆忌だ。今年で被爆者の死没者名
簿は23万7千62名になったと伝えられた。いまだに、年に5千名近い人が亡くなり
名簿に追加されていることに驚きを禁じ得ない。上掲句は、8月9日、長崎の被爆によ
ってのもの。句の前書きに「子の母も死す、三十六歳」とある。この句の前に三人の子
を亡くしたことが記されている。痛ましいが抜き書きをしてみる。
八月九日被爆、二児爆死、四才、一才、翌朝発見す
こときれし子をそばに、木も家もなく明けてくる
長男また死す、中学一年
この世の一夜を母のそばに、月がさしている顔
自ら木を組みて三児を焼く
とんぼう、子を焼く木をひろうてくる
かぜ、子らに火をつけてたばこ一本
翌朝、子の骨を拾う
あわれ七ケ月のいのちの、はなびらのような骨かな
子の母も死す、三十六才
くりかえし米の配給のことをこれが遺言か
なにもかもなくした手に四まいの爆死証明
妻を焼く、八月十五日
降伏のみことのり、妻をやく火いまぞ熾りつ
松尾あつゆきのこれらの句は、山頭火や芳哉と同じ自由律俳句と呼ばれる句だ。
今もイラクやその他の世界の各地では日々理不尽に人が死ぬ。
1904(明37)6.16〜83(昭58).10.10。78歳。『原爆句抄』
(72年刊)所収。